Home〜静止した日常

 

 

 

ウイングフィールド 大阪市中央区東心斎橋2-1-27周防町ウイングス6F

2012年3月10日(土)17時00分〜/19時30分〜

 

 

構成・演出=笠井友仁

出演=高安美帆 森田祐利栄 斧ようこ 近藤美佐子 ナカメキョウコ 森田かずよ

舞台監督=堀田誠

音響=竹下祐貴

照明=根来直義(Top.gear)

制作協力=尾崎雅久(尾崎商店)

宣伝美術・映像=BOKU

協力=CQ 尾崎商店 イロリムラ (有)松本工房

提携=ウイングフィールド

助成=大阪市

主催=エイチエムピー・シアターカンパニー

 

 

 

3月11日午後2時46分の記憶 

 

正木喜勝

 東日本大震災を扱う演劇が関西でも増えてきている。その中で、3月10日の一日限りで上演されたエイチエムピー・シアターカンパニーの『Home 静止した日常』(構成・演出:笠井友仁、於ウイングフィールド)は、あの日、被災地から遠く離れたところで抱いた思いに実験的な手法で迫る作品だった。

 物語らしい物語はない。演者は彫刻のようにポーズをとっているだけで、ほとんど動かないし何も話さない。その代わりに、舞台に置かれたスピーカーから心の声が聞こえてくる。しかし、その声も震災について具体的な何かを語るわけではない。むしろ、ときに詩の朗読のようであったり冗談めかしたりさえしていて、あくまで無関係を装っているようにも思える。ただ上演中に数回響く地鳴りのような音だけが、それとの関連を示唆する。


 冒頭、ひとりの女が、手を挙げて遠くの誰かに叫んでいるポーズをとっている。誰かに向かって叫ぶという行為の瞬間を切り取って見せることは、応答が描かれない限りにおいて、その誰かとの「距離」を際立たせ、ひとり叫ぶ者の「孤立」を強調する。直接的な言及はなくとも、被災地から遠く離れた地にいながらも襲われた、あの独特の強烈な不安感を思い起こさずにはいられなかった。


 この後、別の5人の女によるポーズが続く。台所、食卓、居間、寝室、玄関、つまり「家」の中で日常的に見られる行為の瞬間が切り取られる。鍋を取ろうと右手を伸ばした瞬間、子供が駄々をこねている瞬間、横になってストレッチしている瞬間、ベッドの上で天井を見つめている瞬間、外出しようとする瞬間。タイトルにある「静止した日常」というわけだ。日常があたかも止まってしまったような感覚。緊張と不安に縛られ、永遠に続くのかと思うくらいに長く感じたあの時の感覚。すでに忘れてしまっていたあの経験が、再び私の胸にも広がった。


 終盤になって、演者たちは動きを見せるようになる。5人の女たちは、冒頭で叫んでいた女に自分の衣服を与え、また、飲み物も分かち合う。「衣食」への言及もさることながら、この「分かち合い」の描写も重要であろう。というのも、冒頭の孤独な叫びに対する応答を、ここに見出すことができるからである。あの時、強烈な不安に苛まれた者たちが求めたのは、誰かと分かち合うこと、すなわち他者とのつながりだったのかもしれない。この他者とのつながりをもっとも身近に感じる場所こそ「Home」ということなのだろう。


 仙台が故郷の笠井に、特別な思いがあるのはいうまでもない。上演日に、最初の1年が終わる日が選ばれたのも肯ける。あの日遠く離れたところから抱いた思いを形にして見せたことは、追悼や激励にも劣らない意義深いことだった。

京都芸術センター通信『明倫art』vol.144(2012年5月号)より転載

※『明倫art』には舞台写真も掲載